東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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交通事故によって生じた精神的苦痛は、具体的な金額に換算し、慰謝料として加害者側に請求することができます。
慰謝料の金額を決める算定基準は3つあり、どの基準を採用するかで金額が大きく変わってくるため、適正額の慰謝料を受け取れるようにあらかじめ慰謝料についての知識を持っておく必要があります。
ここでは、3つの算定基準のうちの「弁護士基準」について詳しく解説します。
弁護士基準で算定した場合の慰謝料相場や、請求の流れを紹介するのでぜひ参考にしてください。
目次
慰謝料とは、相手が精神的な損害を受けた場合に、その精神的損害を補填するために支払う金銭のことです。
交通事故の慰謝料については、民法710条に規定されています。
民法710条の規定を簡潔に説明すると、「民法709条によって賠償責任を負う者は、財産以外の損害についても賠償をしなければならない」というものです。
この「財産以外の損害」に、慰謝料が該当します。
全ての交通事故で慰謝料が発生するわけではありません。
交通事故において慰謝料が発生するのは人身事故に限られます。
物損事故の場合、慰謝料は発生しません。
すでに説明したように、慰謝料とは事故によって生じた精神的苦痛に対して支払われる金銭です。
交通事故における精神的苦痛とは
などを指します。
物損事故については、精神的苦痛とは認められないため、慰謝料は発生しません。
交通事故の慰謝料請求の時効は5年です。
慰謝料の種類に応じて時効の起点が異なるので、ここで確認しておきましょう。
慰謝料の種類 | 時効の定義 |
---|---|
入通院慰謝料 | 事故発生日から5年 |
後遺障害慰謝料 | 症状固定日から5年 |
死亡慰謝料 | 死亡した日から5年 |
ただし、ひき逃げなどの相手が分からない場合は、例外的に時効が20年に延長されます。
交通事故における慰謝料の基準は自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類あり、基準によって被害者が受け取れる慰謝料の金額は異なります。
自賠責基準とは、自賠責に基づく慰謝料算定の基準です。
そもそも自賠責とは自動車損害賠償責任保険の略称で、自動車の所有者が加入しなければならないことが法律で義務付けられている損害保険です。
自賠責基準では人身事故のみが保証の対象になるため、物損事故については対象になりません。
また、自賠責基準による慰謝料は、3種類の基準の中でもっとも金額が低くなります。
任意保険基準とは、自動車の任意保険を取り扱う保険会社が主に交通事故の示談の際に用いる基準のことです。
以前は支払い基準が統一されていたため、保険会社が異なっても同一の基準で算定が行われていました。
2018年に統一基準が撤廃されたため、それぞれの保険会社が異なる基準を用いています。
保険会社の任意保険基準は、基本的に公開されていません。
任意保険基準の金額については、自賠責基準よりは高くなりますが、弁護士基準よりも低くなります。
弁護士基準とは、主に弁護士が交通事故についての示談や裁判を行う際に使用する基準です。
交通事故に関する過去の裁判例をもとに設定された基準で、裁判基準と呼ばれることもあります。
弁護士基準の特徴は、3種類の基準の中で金額がもっとも高いことです。
交通事故で高額の慰謝料を算定したい場合は、弁護士基準での算定を目指すことになります。
弁護士基準の交通事故慰謝料額は、赤本と呼ばれる本を参考にしています。
赤本の正式名称は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」です。
上巻と下巻の2冊あり、東京地裁の過去の裁判例(判例)に基づいて、交通事故の賠償金の算定基準が定められています。
赤本には交通事故についての裁判所の最新見解が毎年掲載されます。
人身事故において認められる慰謝料には、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3種類あります。
慰謝料の種類 | 請求できる条件 |
---|---|
入通院慰謝料 | ケガの治療で入院や通院をした場合 |
後遺障害慰謝料 | 完治せず後遺症が残った場合 |
死亡慰謝料 | 被害者が死亡した場合 |
交通事故の慰謝料を弁護士基準で算出した場合の相場を、慰謝料の種類別に見ていきましょう。
なお、実際の慰謝料の金額は具体的な事情によって変化するので、ご注意ください。
入通院慰謝料とは、交通事故によって負った怪我の治療のために、通院や入院が必要になった場合の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
入通院慰謝料は、医療機関の通院や入院の場合に認められます。
自賠責基準による入通院慰謝料は、4,300円 × 治療にかかった日数で計算できます。
弁護士基準の入通院慰謝料は怪我の程度と期間によって異なります。
入通院期間 | 軽症 | 重症 |
---|---|---|
1ヶ月 | 35 | 53 |
2ヶ月 | 66 | 101 |
3ヶ月 | 92 | 145 |
4ヶ月 | 116 | 184 |
5ヶ月 | 135 | 217 |
6ヶ月 | 152 | 244 |
7ヶ月 | 165 | 266 |
8ヶ月 | 176 | 284 |
9ヶ月 | 186 | 297 |
10ヶ月 | 195 | 306 |
11ヶ月 | 204 | 314 |
12ヶ月 | 211 | 321 |
それぞれの入院慰謝料の計算方法をみてみましょう。
たとえば、入院1ヶ月(30日)の怪我の自賠責基準の計算方法は次のようになります。
任意保険基準の入通院慰謝料の相場は、1日8,000円程度です。
入院1ヶ月(30日)の怪我の場合、8,000 × 30 = 24万円になります。
弁護士基準による入院1ヶ月の慰謝料は、赤本の基準によれば33万円程度です。
後遺障害慰謝料とは、交通事故による負傷を完治することができず、いわゆる後遺症が客観的に残ってしまう場合に発生する慰謝料です。
医師の診察を受けて後遺障害診断書を発行してもらい、症状とその重さによって等級認定を受けたものが後遺障害として認められます。
後遺障害慰謝料の請求は、障害の等級によって相場が決まります。
後遺障害等級 | 弁護士基準の慰謝料額 |
---|---|
1級 | 2,800 |
2級 | 2,370 |
3級 | 1,990 |
4級 | 1,670 |
5級 | 1,400 |
6級 | 1,180 |
7級 | 1,000 |
8級 | 830 |
9級 | 690 |
10級 | 550 |
11級 | 420 |
12級 | 290 |
13級 | 180 |
14級 | 110 |
後遺障害の程度として一番重い第1級の場合、自賠責基準の慰謝料は1,100万円です。
任意基準の場合の相場は1,600万円程度で、弁護士基準の慰謝料は2,800万円程度です。
任意基準と弁護士基準を比較するだけでも、1.5倍以上の違いがあります。
死亡慰謝料とは、交通事故によって被害者が亡くなった場合に支払われる慰謝料です。
死亡慰謝料には被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料があります。
しばらく入院した後に亡くなった場合には、それまでの入通院慰謝料と死亡慰謝料の両方が支払われることになります。
詳しく知りたい方は、「死亡慰謝料について」を参照してください。
交通事故の死亡慰謝料の弁護士基準は赤本に基づくものですが、被害者の立場によって金額が異なるのが特徴です。
被害者の立場 | 慰謝料額 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親や配偶者 | 2,500万円 |
独身者、子供、幼児等 | 2,000万円~2,500万円 |
上記の金額には、被害者本人に対する慰謝料と遺族に対する慰謝料が含まれています。
任意保険基準の相場では、一家の支柱の場合は2,000万円、母親や配偶者の場合は2,000万円、独身者・子供・幼児等の場合は1,500万円です。
1,000万円近くの差があるので、弁護士基準での慰謝料獲得を目指しましょう。
詳しく知りたい方は、「【弁護士監修】交通事故慰謝料の計算方法まとめ。読めばすべて解決!」を参照してください。
被害者が交通事故で亡くなった場合、特に即死の場合には、既に亡くなってしまった被害者が精神的な苦痛を受けるのかという点で少し違和感があるかもしれません。
かといって、被害者が亡くなった場合に慰謝料を認めないとすると、被害者の死亡という重大な事故にも関わらず、責任が軽くなってしまいます。
そのため、被害者は亡くなる際に多大な精神的苦痛を被り、その時点で慰謝料が発生すると構成し、亡くなった場合にも被害者の慰謝料が発生することが認められています。
もっとも、慰謝料が発生しても被害者は既に亡くなっているので、被害者自身が相手に支払いを請求することはできません。
その場合、被害者の親、配偶者、子供などの遺族が慰謝料を請求する権利を相続し、被害者に代わって相手に慰謝料を請求することになります。
また、被害者自身の慰謝料だけでなく、大切な人を事故で亡くしたことによる精神的苦痛として、遺族自身にも固有の慰謝料を請求する権利が認められます。
交通事故の慰謝料の3つの基準のうち、弁護士基準の金額が一番高いことがおわかりいただけたと思います。
しかし、法律の専門家ではない一般の方が交通事故の被害にあった場合、保険会社との示談において弁護士基準の賠償金や慰謝料を獲得するのは非常に難しいのが現状です。
保険会社は交通事故の示談のノウハウが豊富なので、あの手この手でこちらの主張に反論してきます。
ここからは、交通事故の慰謝料額を弁護士基準で獲得するポイントをご紹介します。
弁護士基準で慰謝料を請求したい場合は、弁護士に依頼するのが近道です。
弁護士に依頼した場合、示談が成立しなければ弁護士は裁判を起こすので、保険会社は裁判に対応しなければならなくなります。
弁護士は法律の専門家です。
とくに交通事故に詳しい弁護士であれば、裁判において適切な主張や立証ができるので、裁判に勝つ可能性は非常に高くなります。
その場合、保険会社は結局弁護士基準で慰謝料を支払うことになり、裁判にかかった時間と費用の分だけ損をすることになります。
そのため、保険会社としては時間と費用が節約できる方法として、示談の段階で弁護士基準での支払いに応じる可能性が高くなるのです。
ただし、弁護士への依頼は示談交渉が完了する前にしましょう。
示談が成立してしまうと、弁護士でも示談内容の変更は難しいからです。
例えば「示談交渉が終わって慰謝料の振り込みがあったけど、金額が少なくて納得できない」というケースは、完全に手遅れです。
交通事故の示談交渉は相手の保険会社とのやりとりも含まれるので、なるべく早い段階で弁護士に依頼して、有利な交渉ができるようにしましょう。
交通事故の慰謝料金額は、過失割合も加味されます。
過失割合とは、事故の責任がお互いにどれだけの割合であったのかを決めるものです。
自分の過失割合が下がれば、相対的に請求できる慰謝料の金額も増えます。
相手の保険会社から過失割合の提案があった場合も、すぐに受け入れるのではなく、少しでも自分の過失割合が下がるように交渉しましょう。
過失割合を下げるためには、相手の保険会社への交渉が必要ですが、自分・自分の保険会社・弁護士の誰が交渉しても問題ありません。
また、事故の状況が分かるように、目撃者の証言・ドライブレコーダーの記録を確認して、証拠として提出するといいでしょう。
慰謝料とは、交通事故で請求できる賠償金の1つです。
実は慰謝料以外にも多くの賠償金があります。
慰謝料以外の賠償金を把握して適切に請求することで、事故の賠償金を増額できる可能性があります。
種類 | 内容 |
---|---|
慰謝料 | 精神的な苦痛に対して支払われる |
治療費・入院費 | 治療にかかる費用、入院雑費なども含まれる |
通院交通費 | タクシーも含め通院にかかった交通費 |
通信費 | 交通事故によりかかった通話代など |
修理費 | 車両の修理にかかった費用(レッカー代・代車の費用も含む) |
付き添い看護費 | 入通院で付き添いが必要になった際に認められる費用 |
器具等購入費 | 治療や後遺症が残った際にかかる必要(車椅子・松葉杖など) |
家具等改造費 | 後遺症が残ることによってかかる自宅のバリアフリー化などの費用 |
物損費用 | 交通事故が原因で破損したものの費用 |
葬儀関係費 | 葬儀に関する費用 |
休業損害 | 休まずに働いていれば得られた現在の収入減少に対する損害賠償 |
逸失利益 | 交通事故がなければ将来得られたであろう経済利益 |
自分が請求できそうな賠償金がないか、確認してみましょう。
交通事故の慰謝料を弁護士基準で算定すると高額な慰謝料が獲得できる可能性が高くなります。
しかし、交通事故事案によっては、裁判により弁護士基準を超える慰謝料を獲得できることもあります。
ここからは、弁護士基準を超える慰謝料が認められた裁判例をご紹介します。
パトカーに追跡されていた加害者が、時速80キロで反対車線を逆走していました。
そのため、前を走っていた車が急ブレーキをかけることとなり、後ろを走っていたバイクがその後にあわてて急ブレーキをかけた結果、転倒して死亡しました。
このケースでは、弁護士基準による死亡慰謝料の金額は2,800万円であったところ、事故の発生したときの様々な状況を加味して、1,300万円が増額され、あわせて4,100万円の慰謝料が認められました。
中でも、加害者が時速80キロで反対車線を逆走していることや、犯罪を犯してパトカーに追跡されていたという動機が、慰謝料の計算にあたって大きく考慮されました。
飲酒運転をしていた加害者の車が、飲酒運転の取り締まりを行っていたパトカーの追跡から逃亡するため、時速135キロで反対車線を逆走し、被害者の車に衝突しました。
その結果、被害者は併合8級の後遺障害を負うこととなりました。
このケースでは、弁護士基準による後遺障害慰謝料は830万円、傷害慰謝料は225万円とされていましたが、裁判では後遺障害慰謝料1,100万円、傷害慰謝料は277万円が認められました。
加害者の悪質性、被害者に傷跡が残っていることなどが考慮され、慰謝料が増額されています。
また、被害者に逸失利益はないものとされましたが、その分慰謝料の金額を大きくするという判断がされています。
居眠り運転をした加害者が、集団登校していた小学生の列に車で突っ込みました。
被害にあった小学生に骨折などの症状はありませんでしたが、3日の入院と4年4ヶ月にわたる通院を行いました。
また、被害者は外出困難となり、その後4年4ヶ月にわたって不登校の状態が続きました。
このケースでは、弁護士基準による入通院慰謝料の金額は、約160万円と算定されていました。
しかし、集団登校の小学生の列に突っ込むという事故の状況、居眠り運転という事故の原因、加害者が被害者の救護を行わなかったことなどが大きく考慮されました。
その結果、弁護士基準を大幅に上回る300万円の慰謝料が認められています。
交通事故の慰謝料を算定する基準は自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類あり、そのなかでも弁護士基準は慰謝料がもっとも高額です。
弁護士基準は、弁護士が交通事故の示談や裁判を行う際に使用する基準で、高額の慰謝料を算定したい場合は、弁護士基準での算定を目指すことになります。
ただし、法律の専門家でなければ弁護士基準で慰謝料を獲得することは難しいかもしれません。
示談交渉を弁護士に依頼すると、保険会社との交渉がスムーズに進み、弁護士基準の慰謝料を獲得することも望めるようになるでしょう。
相手側との交渉がうまくできるか不安な場合は、示談が成立する前に交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。