東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
目次
交通事故にあったとき、よくあるのが、保険会社がその代理人となって示談交渉の場に来ることです。
保険会社の代理人はいわば交通事故の示談交渉に関するプロの人たちです。
そんな人たちを相手に交渉するにはちょっとしたテクニックが必要です。
突然、保険会社から「症状固定」の通告が来ました。
でも、「症状固定」は簡単に認めないでください。
なぜ、「症状固定」を簡単に認めてはいけないのか、そもそも「症状固定」とは何なのか。
そのあたりを解説したいと思います。
交通事故後に、突然保険会社から「症状固定」を通告してくることがあります。
なぜ保険会社は一方的に症状固定を通告してくるのでしょうか。
また、保険会社から症状固定の通告があったとき、どのような点に気を付けるべきなのかを解説します。
交通事故にあった場合で、その交通事故が傷害事故だった場合、被害者は、何らかの傷害を受けています。
その傷害を直すために、病院に入院したり、治療に通ったりします。
その病院での適切な治療期間が終わった時を「症状固定」といいます。
この症状固定には、次の2つの状態があります。
①の治ったときというのは、症状が治り、回復したという意味ですので、わかりやすいと思います。
②の状態というのは、傷病の状態が安定している状態に入ったときのことで、もちろん薬や治療によって一時的に回復するものの、これ以上の医療効果が期待できなくなったと判断される状態のことになります。
交通事故の場合、この症状固定までの損害を傷害による損害とし、この症状が固定したあとに残った傷害については、後遺症による損害として扱うことになります。
詳しく知りたい方は、「症状固定とは?治療費や休業損害との関係」を参照してください。
なぜ、保険会社は、症状固定の通告をしてくるのでしょうか。
交通事故にあい、被害者が通院などをしていると、思わず長引いたりすることはよくあることです。
そんなとき、保険会社側からの一方的都合で、キリのいい期間で、症状固定を通告してくることがあります。
保険会社としては症状固定をしない限り支払いが発生し続けますので、なるべく早く症状固定の通告をして支払いを打ち切りたい気持ちからきています。
保険会社から症状固定の通告がきたとき、簡単に認めてはいけません。
なぜ、簡単に認めてはいけないのか。
その理由を解説します。
まず、一番大事なこととして、その傷病が本当に治ったのかどうか、あるいは症状が固定したのかどうか、判断ができるのは医師のみです。
保険会社がその判断を下すことはできません。
交通事故のプロであっても、傷病を治すプロではありません。
保険会社は、保険会社の都合で、キリのいい時期に、症状固定の通告や治療費支払いの打ち切りを通告してきます。
ですが、本当にその傷害が治ったのかどうかは、医師の判断によるもので、きちんと医師と相談し決定すべき問題となります。
保険会社は、もちろん営利企業ですから、できる限り支払いは少なくしたいと思っています。
また、会社内部での事情もあるでしょうし、担当者の立場もあります。
いずれにせよ、症状固定の通告をしてくるのは、保険会社の一方的な都合でしかありません。
ですので、被害者がその都合に従う必要はまったくありません。
示談とは、法律的な紛争をかかえている当事者同士が、お互いに話し合いをし、その紛争を解決することをいいます。
交通事故の示談の場合、この法律的な紛争とは、つまるところ損害賠償金額がいくらになるのか、という争いになります。
交通事故では、被害者は加害者に対して、損害賠償請求ができます。
そして、この損害賠償請求金額がいくらになるのか、というのはお互いにとってもとても重要な問題となります。
そして、当然ですが、保険会社は、この損害賠償請求金額をできる限り低くしたいという思惑をもっています。
また、当然相手は交通事故のプロですから、あの手この手を使って、低い金額で、かつ早く示談が成立するように迫ってくるのです。
詳しく知りたい方は、「交通事故の示談交渉において注意すべき8つのポイントとは?」を参照してください。
いったん示談が成立してしまうと、あとからやり直すことはできません。
これは、示談成立時にはわからなかったことや、勘違いしていたことなどがあったとしても、通用しません。
ただし、交通事故の場合、示談当時に予測ができなかった後遺症が発生した場合にのみ、判例によってその後遺症の損害賠償は認められることにはなっています。
保険会社は、プロですから、できるだけ金額を低く、そして早く示談が成立するように迫ってきます。
ですが、いったん示談が成立すると、それをやり直すことはできません。
思ったより病院通いが長くなったり、思ったより治療費がかかってしまったり、あるいは会社を休む期間が当初予想していたものより長引いてしまったり、ということはよくあります。
こんなとき、早めに予想で示談をしてしまったりしていると、これらの治療費や休業補償をあとから請求できません。
また後遺症が出てくることもあります。
判例では後遺症については示談時に予測ができなかった分に関しては損害賠償請求できるとなっていますが、これも実際それをするとなると、なかなか大変な作業となってしまいます。
ですので、被害者側としては、あせらず、できるだけ、本当の意味での症状が固定するまで、示談交渉の開始は待つべきです。
きちんと傷病が治った時、あるいは後遺症がある場合は、症状が固定し、後遺症が何級と認定されたとき、そこではじめて損害賠償請求金額がいくらになるのかを計算していくのが望ましいでしょう。
詳しく知りたい方は、「交通事故示談交渉を有利に進めるための対保険会社対応マニュアル」を参照してください。
保険会社は、交通事故のプロなので損害賠償金額を低くしようとして症状固定を勧めてきます。
被害者側は示談を早くすませたいという思いから焦ってしまいがちですが、示談交渉はいったん成立するとやり直すことはできないので慎重に構えるべきです。
本当の意味での症状が固定するまで、示談交渉を開始するべきではないことを心に留めておきましょう。