東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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昨今、交通死亡事故での裁判が全国民の注目を集めました。
それまでの日常を全て奪い去り、残されたご遺族の未来さえも狂わせてしまうのが交通死亡事故です。
日々、交通事故のニュースが流れていて、どれだけ大変なことなのかが報道されているにもかかわらず「任意保険未加入」の運転者がいるのが現実です。
最低限の補償しかしてもらえない自賠責保険では納得できる慰謝料額には及びません。
「お金がないので慰謝料は払えません。」
交通事故の被害者であるご自身が、加害者にこのようにいわれたらどうしますか?
当然、納得がいかず怒り心頭となるのではないでしょうか。
抑えきれなくなってしまった感情が思わぬ暴行の引き金になることもあります。
とはいえ、困るのは被害者のご遺族です。
大切なご家族をある日突然奪われた精神的なダメージは計り知れません。
何か、解決策はないのでしょうか。
ここでは、交通事故の加害者に経済的資力がない場合の対処法についてみていきます。
目次
交通事故による死亡事故のケースでの慰謝料相場をみていきましょう。
まず、慰謝料の種類についてみていきましょう。
交通事故の慰謝料は3種類あります。
入通院慰謝料 (傷害慰謝料) | 交通事故により怪我をし、入通院を強いられたことで受けた精神的苦痛に対する補償のこと。 「入院期間」や「通院日数」を元にして計算する。 |
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後遺障害慰謝料 | 交通事故により後遺障害となるほどの怪我を負ったことで受けた精神的苦痛に対する補償のこと。 「後遺障害等級」の申請手続きをして認定されれば請求することができる慰謝料で第1級〜第14級までに分類されている。 煩雑な手続きが必要で、「等級」により慰謝料額が異なる。 |
死亡慰謝料 | 交通事故により死亡したことで受けた精神的苦痛に対する補償のこと。
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続いて、慰謝料の相場を知るには3つの基準について理解する必要があります。
この基準の違いにより、最終的に受け取る金額に2〜3倍程度の大きな差が生じてしまいます。
損害が大きければ、1,000万円ほどの差が生じることも決して珍しいことではありません。
また、上記の慰謝料の算出には3つの基準があります。
最終的にもらうことのできる金額がかなり左右されてしまいますので、よく確認しておきましょう。
賠責保険基準 (最も低い基準) | 車両所有者全員に加入が義務付けられている保険。 必要最低限の補償が目的。 |
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任意保険基準 (自賠責基準に少し加算された程度) | 任意で加入する保険。 各社独自に内部運用で基準を定めており、保険会社ごとに基準が異なる。 計算方法などは非公開。 |
弁護士基準(裁判基準) (最も高い基準) | 過去の裁判例に基づき裁判所や弁護士が交通事故の慰謝料を算出する際に使う基準。 |
自賠責保険の限度額は以下のとおりです。
入通院慰謝料 | 120万円 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 4,000万円 |
死亡慰謝料 | 3,000万円 |
※2020年4月1日以降に発生した交通事故に適用される。
※入通院慰謝料は日額4,300円を元に算出されるため、入通院期間が長期になるほど慰謝料額は高額になる。
次に「死亡慰謝料」についてみていきましょう。
「請求権者(慰謝料請求権を有する者)」の人数により金額に影響を及ぼします。
※以下に該当する一定の範囲に属する人が「請求権者」です。
請求権者数 | 慰謝料額 |
---|---|
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人 | 750万円 |
※死亡被害者に被扶養者がいる場合は、上記金額に200万円を加算する。
「被扶養者」とは、死亡被害者の収入で生計を立てている一定範囲に属する扶養家族のことを指す。
自賠責保険とは異なり「被害者の属性」により金額に影響を及ぼします。
ここにいう被害者の属性とは「死亡した被害者が家庭内でどのような立場であったか」ということです。
死亡被害者の属性 | 慰謝料額(推定値) |
---|---|
子供や高齢者、その他 | およそ1,100〜1,500万円 |
専業主婦(主夫)、配偶者 | およそ1,300〜1,600万円 |
一家の支柱(一家の生計を立てている) | およそ1,500〜2,000万円 |
任意保険基準では、「死亡被害者本人の死亡慰謝料」と「ご遺族固有の慰謝料」について分けて計算されず合算した金額となっているようです。
任意保険基準の計算方法は非公開なので、あくまでも推定値ですがご参考にしてください。
この金額で納得できるでしょうか?
任意保険基準と同様に「被害者の属性」により金額に影響を及ぼします。
死亡被害者の属性 | 慰謝料額 |
---|---|
子供や高齢者、その他 | 2,000〜2,500万円 |
配偶者や母親 | 2,500万円 |
一家の支柱(一家の生計を立てている) | 2,800万円 |
弁護士基準では、弁護士がサポートすることで「死亡慰謝料」のほかに「ご遺族固有の慰謝料」を客観的な証拠などに基づいて請求できる可能性があります。
ニュースなどでもご存知のとおり、交通事故の慰謝料額はかなりの高額です。
自分の不注意で加害者になってしまう可能性は十分に考えられます。
そのような万が一の事態に備えて、多くの方が任意保険に加入するのですが、残念ながら未加入の方がいるのが現実です。
任意保険は、あくまで任意に加入する保険ですので、保険料がかかります。
経済的に余力の無い方が任意保険に未加入のケースが多いでしょう。
任意保険に未加入ということは、当然ながら加害者本人が交通事故の慰謝料を支払こととなります。
しかしながら、任意保険料を払う余力のない方に高額な慰謝料を支払う能力があるといえるでしょうか?
現実的には、かなり難しいでしょう。
経済的な余裕が無い加害者の場合は、慰謝料を払えないといってくるケースがあることを覚悟しておく必要がありそうです。
では、加害者が慰謝料を払えないときの対処法についてみていきましょう。
ここでは3つの解決方法について解説していきます。
交通事故発生から解決に至るまでを時系列にしました。
ご参考になさってください。
訴訟や強制執行という言葉は、とても重みのある言葉に感じるのではないでしょうか?
普通に生活をしていれば訴訟や強制執行に関わることがあまりないため、その内容を知らなくて当然です。
一つずつ確認していきましょう。
何よりも、まず初めに行うのが「交渉」です。
交通事故発生時に相手の「氏名・住所・電話番号」などの情報を確認しておきましょう。
経済的に充分な資力がある加害者であれば、事故態様により一概にはいえませんが過失割合などで争いがなければ、特に問題なく交渉で解決することが期待できます。
しかし前述のとおり、任意保険に加入していなければ交渉は難航することが想像に難くありません。
「もう少しまけてください。」
「お金がないから払えないっていってるだろうが!」
「こっちだけが悪い訳じゃないだろう!」
などと、ゴネたり耳を疑うような対応をしてくることも珍しいことではありません。
自分が悪いとわかっていても、いざ高額な慰謝料を請求されると狼狽してしまうのです。
ゴネている加害者との交渉がうまくいかなければ「訴訟」に移行します。
「お金を払えない!」といっている加害者から、力づくで無理矢理奪い取ってしまうと窃盗罪(刑法第235条)に該当し、処罰されてしまうからです。
このようなケースでは、もはや交渉することは困難ですので訴訟(裁判)で決着をつけることになります。
裁判所に対して被害者側から「加害者の過失により交通事故に遭い、損害が発生したので加害者に損害賠償金を支払わせて欲しい」と意思表示(≒請求)をしていくのです。
提訴してから判決が出るまでには時間はかかりますが、正当な判断(=判決)を得ることができますので、被害者側からしてみたら一安心です。
ですが、ここは要注意です。
訴訟で勝ったからといって、必ず加害者が慰謝料を払ってくれるとは限らないからです。
いったいどういうことなのでしょうか?(後述する強制執行へ)
「訴訟の手続き」について簡単にご説明していきます。
訴状が受理されるまでにもこれだけの手続きが必要です。
これらを一つずつ調べ、訴状を書き、証拠を集めて全ての事柄を適正に進めることはとても複雑ですので時間も相当かかります。
専門用語も多いので、とてもわかりにくいものです。
この後、期日が決定され口頭弁論などが行われた後、判決が言い渡されます。
相手方に不服がなければ判決が確定します。
もし、相手方に不服があれば控訴へと移行します。
これらの煩雑な手続きをご遺族が自力で行うことは現実的ではありません。
大切なご家族を失って間もない状態では、あまりに負担が大き過ぎます。
訴訟で判決が確定すれば加害者から自動的に慰謝料が支払われる訳ではありません。
裁判所の判決は「被告(加害者側)は原告(被害者側)に対して金〇〇円を支払わなければならない」というようにあくまでも義務があることを確認するに留まるものです。
つまり、この判決には「強制力」はなく実際に支払わせる力を持っていません。
被害者からしてみたらがっかりしてしまうのではないでしょうか?
この判決を得るまでには、時間もかかり労力も要するからです。
しかし、この判決がなければ次に行う「強制執行の申し立て」を行うことができません。
すなわち、この判決は強制執行を行うための重要なアイテムなのです。
「強制執行」とは、債権者(被害者)の債務者(加害者)に対する私法上の請求権を国家権力により強制的に実現していく手続きのことをいいます。
支払いを拒否している債務者(加害者)の財産的価値のあるものを売却し、その換価代金を債権者に支払う手続きです。
強制執行の代表例として挙げられる「不動産」についてみていきましょう。
強制執行の申し立ては「判決」に記載されている内容を基に作成します。
その他にも、執行に必要な様々な添付書類や費用を用意し管轄裁判所(地方裁判所)に申し立てを行います。
申し立てが受理され「強制執行開始決定」が出ると、不動産に差し押さえの「登記」を行います。
次に、「売却」手続きを行い入札の方法により売却を行います。
この売却代金が債権者に支払われるのです。
不動産以外にも、「動産」や「債権」などのケースも強制執行の対象となります。
もし、債務者(加害者)がどのような財産を持っているか不明なときは「財産開示手続き制度」を行うことができます。
民事執行法で定められており、裁判所を介して財産を開示させる手続きのことです。
申し立てを行うと、裁判所が債務者(加害者)を呼び出し保有財産について話し合います。
債務者が呼び出しに応じないこともあるのでは?
と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、裁判所による呼び出しに応じない場合は「過料」の制裁があります。
では、債務者(加害者)に財産的価値のあるものを何も持っていない場合はどうなるのでしょうか?
何か救済策はあるのでしょうか?
残念ながら、法的な救済策はありません。
上記のような方法などで慰謝料を回収するほかありません。
本人から直接お金を回収するということは難しいでしょう。
死亡事故の慰謝料額はかなりの高額になります。
数億円というケースも存在します。
任意保険に未加入の加害者では、経済的に裕福な人でもない限り支払うことは難しいでしょう。
そのような場合はどうしたらよいのでしょうか?
一つずつ確認していきましょう。
加害者が支払えない場合にまずするべきことは「自賠責保険へ支払い請求」をすることです。
「被害者請求」という法的な制度(自動車損害賠償補償法第16条1項)を使い被害者自身が自賠責保険へ請求します。
自賠責保険の被保険者は加害者であり、被害者ではありません。
しかしながら、自賠責保険の目的は「被害者の保護」にあります。
自賠責保険は、交通事故被害者に対して最低限度の補償をするために車やバイクの所有者に加入を義務付けています。
加害者本人が払えない場合でも、自賠責保険から支払いを受けられるということがわかりました。
いったいどのくらいもらえるのでしょうか?
【自賠責保険の限度額】
入通院慰謝料 | 120万円 |
---|---|
後遺障害慰謝料(等級に応じて異なる) | 75万円〜4,000万円 |
死亡慰謝料 | 3,000万円 |
※「物的損害」については対象外です。
最低限の補償ですので、満足のいく金額とはいえないと思われる方も多いのではないでしょうか?
上記の自賠責保険の限度額を超える分については、加害者本人と交渉する必要があります。
一括払いが難しければ、分割払いでもよいというような譲歩する姿勢が功を奏することもあります。
一括払いにこだわり過ぎて支払いを踏み倒されるよりは、分割払いでもきちんと支払いされた方がよい結果を得ることができるでしょう。
そして、注意が必要なのは途中で分割払いが滞ってしまうことです。
そのような事態に備えておくためにも、分割払いでの支払いに合意する旨を盛り込んだ「示談書」を公正証書で作成しておくことをおすすめします。
公正証書で作成することにより、訴訟をしなくても差し押さえをすることが可能となるからです。
自己破産といえば、借金がチャラになるというイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか?
しかし、一部の請求権(債権)については、たとえ自己破産しても免責されないと破産法により定められています。
つまり、加害者が自己破産しても交通事故の損害賠償金は免責されず支払いを請求できるケースとは、端的にいえば以下のようなケースです。
以上の2つを満たすことが必要です。
また、ここにいう「重過失」とは以下に該当するものをいいます。
言い換えれば、加害者が相当悪質ではない限り、免責されてしまうことになり支払いを請求できなくなってしまう結果となります。
※参考(破産法第253条一部抜粋)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産再建について、その責任を免れる。
ただし、次に掲げる請求権については、この限りではない。
(略)
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く)
(以下 略)
加害者に充分な資力があり、被害者のご遺族が納得できるくらいの慰謝料額を払える場合は問題にならないのですが、多くの加害者が充分な資力を持っている訳ではありません。
加害者が賠償金を払えないときの対処法をみてきましたが、やはり不安が払拭できないと思われれば、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
また、弁護士を介さず当事者同士のみの交渉は必要以上に時間がかかることが予想されます。
精神的にも大きな負担となります。
また、死亡事故で請求できる項目は慰謝料だけではありません。
損害賠償金の項目は多岐に渡ります。
漏れなく請求していくためには、やはり専門的な知識が必要不可欠です。
法的な知識と経験で様々な視点から、被害者救済のために尽力してもらえることが期待できます。